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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(ね)21号 決定 1949年3月05日

主文

本件管轄移転の請求を却下する。

理由

本件請求の理由は別紙管轄移転請求の申立と題する書面記載のとおりである。

しかし、被告人が所論のような社會的政治的經歴と地位を有し、現に日本共産黨石川縣委員として所論のような活動をして居り、被告人に對する本件被告事件が所論のように石川縣小松市所在の株式會社小松製作所の爲した從業員の大量解雇に端を発した爭議中の出來事にかゝっている以上、右事件が同地方の新聞紙によって大きく報道され、石川縣下の保守進歩の各陣營に屬する者を始めとして一般民衆が右被告事件の裁判の歸趨に甚大な關心を寄せて居ることは當然であって、その公判に多數の傍聽人が殺到することも勿論豫期されるところである。併し右のような状況にあるからと云うて、他に特別の事情の認められない限り、右被告事件の控訴審を名古屋高等裁判所金沢支部で行うときは、その公平を維持し得ない虞があるとは認められない。

請求人等は石川縣地方労働委員會が昭和二三年七月一〇日前記會社の解雇處分を労働組合法第一一條違反であると裁定し乍ら、同月一四日右裁定を覆したのは、被告人の自由なる活動を好まない一部保守反動勢力の存在が金力と權力を利用して非違を強行せんとした策動の端的なあらはれであり、本件被告事件について第一審たる金沢地方裁判所が同年九月二四日言渡した判決において判決の結果が辯護士たる被告人に對して如何なる影響を及すかと言うことを知り乍ら他の被告人と同一の刑罰を被告人に科したばかりでなく、被告人の本件行爲は辯護士としての正當業務行爲であるとの主張についても一片の判斷すら下していないのは、被告人の地位、地方の民心その他の事情が影響を與へた結果であるとおもわれる旨主張するけれども、右裁定及び判決が所論のような策動や影響によるものであるとの事実はこれを認めるに足る證據はないのである。

なお裁判所の審理が何人かの策動によって妨害され、惹いては地方の治安を紊す虞のある場合には、武装警官による警戒の必要があることは固より當然のことであるから、第一審の第一回公判期日に多數の武装警官の警戒があってもその一事をもって、直ちに裁判の公平を維持し得ない虞があるものと即斷することはできないのである。然らば本件控訴審が本來の管轄裁判所たる名古屋高等裁判所金沢支部において行われたとしても裁判の公平を維持することができない虞があるとは認められないから本件管轄移転の請求は理由がない。

よって刑訴施行法第二條舊刑訴第二三條に從い、主文のとおり決定する。

此の決定は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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